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No15182 の記事


■15182 / )  無用の用
□投稿者/ 田秋 -(2021/07/23(Fri) 21:30:47)
    2021/07/24(Sat) 04:48:52 編集(投稿者)

    こんばんは、アートポットさん

    今回のお題は《無用の用》です。荘子に出てくる言葉で「役に立たないと思っているものが実は本当に役に立つのだ」というくらいの意味です。荘子はこの考えにかなり自信をもっていたらしく色々譬えを書いています。それと荘子が考えていた「役に立つ」とはどういうものだったのか、これも興味のあるところです。

    まず、内篇・逍遥遊篇の恵子との会話から。
    恵子と言っても、行きつけの飲み屋の可愛い恵子(けいこ)ちゃんじゃありません。恵子は「けいし」と読み、恵施(けいし)のこと、名家(言葉の分析をとおして弁論や説得を行う学派。公孫竜の「白馬は馬にあらず」等)の論客で魏の恵王の宰相にもなった人、荘子の友人でもありました。司馬遷はこの辺りの記述を参考にして史記の「荘子」を書いているのでしょう。

    恵子が荘子に向かって
    「王さまが瓢箪の種くれはったもんで蒔いたら物凄おっきな実ぃがなったんやけど、とにかくおっき過ぎて使いみちあらへんのやわ。そやから結局、捨ててしもたわ」

    荘子:「オマエはおっきいモンの使い方が分かっとらんな。こんな話知っとるか。宋の男でな、あかぎれの薬を作る名人がおったんや。そいつの家は真綿を水にさらすのを生業としとったんや。冬なんかあかぎれになるやろ。そいであかぎれの薬が要るんやな。ま、それを聞きつけた旅のモンがおって、薬の作り方を百金で教えてくれ言うたんや。名人、考えたわさ。『真綿売っとっても数金止まりや。百金くれるんなら売ったろやないか』
    旅人は薬の作り方教えてもろて呉の王さんとこ行って薬を宣伝したんや。そんな時に呉と越が戦争始めたんや。ほしたら王さんはこの男を将軍にしたんや。冬になって河の戦いやで(註:呉と越は富春川という川が国境でした)。みんなあかぎれになるわさ。そやけど呉にはあかぎれの薬があるんや、呉の大勝ち。呉の王さんは褒美にこの男に領地やって諸侯に取り立てたんや。一方は諸侯になる、一方は一生真綿さらし、同(おんな)じあかぎれの薬でこれだけ違(ちご)うてくるんや。
    オマエも瓢箪がそんなに大きかったんなら、くり抜いて舟にでもして湖で遊んだらどうやったんや。ホンマ融通のきかんやっちゃ」


    同じく逍遥遊篇、恵子が
    「ワシんとこにおっきな木があるんや。樗(ちょ)言(ゆ)うらしいんやけど、幹はコブだらけ、小枝は曲がりくねって使いもんにならへん。そやから大工も振り向きもせえへんのや。ところでオマエの言(ゆ)うとることもこの木おんなじで、おっきいばっかしで何の役にも立たへん代物(しろもん)やないか」

    荘子:「オマエはヤマネコ知っとるやろ?ネズミが出てくるのを待ち構えてやな、いざ獲物を見つけたら跳ねまわって周りのことなんか見えんようになり、結局人間の罠に捕まってしまうんや。反対におっきな野牛はネズミは捕まえられへんけど罠にはまることもない。オマエんとこの樗という大木、大工からも見向きもされへんから斧で切り倒される心配もないんや。そやから長生きできるんや、役に立たへんからゆうて困ることなんもあらへん」

    最初の瓢箪の話は無用の用のコンセプトからするとちょっとピンと来ないかもしれませんが、役に立たないと思ったものにも有用なところがあると荘子は言っているのだと思います。ただその後のあかぎれの薬の話はボク的には本当にピンときません。どうですか、アートポットさんは?

    二つ目の大木の樗の話では、荘子がどういう事を「役に立つ」と考えていたかがわかります。人のために役立つことを有用とは考えていません。樗は大工の目から見て役に立たなかったからこそ寿命を全うしているのです。《生きながらえる》ということが荘子にとって最重要の目標のように見えます。

    明治の思想家、文芸評論家の高山樗牛の《樗牛》は二つ目のエピソードから取っています(と思います)。

    続く

    参考書:諸星轍次「荘子物語」、森三樹三郎「荘子」、金谷治「荘子」、森三樹三郎「老子・荘子」
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