| 2020/07/27(Mon) 15:15:45 編集(投稿者)
田秋総合研究所3開設を記念し沙悟浄の出自を述べる。5→3まである。
沙悟浄の出自に関して日本で最も言われているのは河童である。しかしこれは中国では通用しない。何故なら中国には河童はいないからである。動物学者であり広島私立阿佐動物公園園長でもあった小原二郎氏はヨウスコウカワイルカ説を唱えた。河童もヨウスコウカワイルカも水と関わりを持っているところは似ている。
中野美代子氏に「イヌのいない動物誌 桃太郎から『西遊記』まで」(日本及び日本人 通号1565号 1982)という論文がある。内容を一言で言えば、桃太郎の三従者と三蔵法師の三従者について、比較しながら色々論じたものだ。その中で沙悟浄の正体についての考察がある。
その論考を要約すると、まず、沙悟浄が下界に落とされ流沙河に住んでいることが、正体を考える第一の手がかりとなる。古来(西遊記が書かれていた頃)、中国では流沙河はその字面から河だと思われていた(実際は砂漠。風によって砂が河のように流れる)。また、流沙河は弱水とも混同もされていた。それは西遊記の記述でも同様だ(第8回:P298、第22回:P48)。次に中野氏は弱水からの連想により、「山海経」の「あつゆ」にイメージを膨らませる。
「山海経」には何箇所か「あつゆ」が出てくるが、概ね2種類に分かれる。一つは北山経に出てくる「あつゆ」で、「これは牛のようで赤い体、人面で馬足、声は嬰児で人を食う」、もう一つは、「竜の頭で弱水に住む。・・・人を食う(海内南経)」、「蛇身人面(海内西経)」、「竜首、これは人を食う(海内経)」と描かれるものだ。オリジナルの山海経にもかなりたくさんの挿絵があるが、残念ながら「あつゆ」のものはない。しかしこのファンタジーに満ちた書物には、後代たくさんの挿絵が追加されていった。下のイラストもそういう類のものである。
人を食うところは北山経の「あつゆ」と同じであるが、イメージとして蛇や竜に近いものであるというところが異なる。山海経に注を書いた郭璞は、「あつゆはもともと蛇身人面であったが、弐負(じふ)の臣に殺され、そのあとでまた化して竜首になったのだ」と言っている。この元々は蛇で、人を食う「あつゆ」が、深沙神(大唐三蔵取経詩話に現れる神、蛇を持って描かれることが多い)を経て沙悟浄になったのであろうというのがこの考察の大筋である。
沙悟浄の正体がヘビであるという説は、説得力があるように思える。確かに西遊記を読んでいても水中を得意とする描写がある(黒水河事件、通天河事件等)。
|